『世界は経営でできている』 

『世界は経営でできている』 岩尾 俊兵

久しぶりに、読後感が心地よい本に出会いました。何かの雑誌で紹介されていた『世界は経営でできている』という本。「ライトな経済の本」とのことだったので、軽い気持ちで手に取ってみたのですが、内容以上に驚いたことがあったので、ぜひご紹介したいと思います。

著者の岩尾俊兵さんは、なかなか波乱万丈な経歴の持ち主です。父親の事業の倒産で中卒で陸上自衛隊に入隊。その後、さまざまな職業を経て高卒認定試験に合格し、慶應義塾大学に入学したという苦労人で、現在は慶應義塾大学商学部の准教授を務めています。

本書は、生真面目な論文体というわけではなく、サラッと読めます。ご本人が「令和冷笑系文体」と銘打つその文体は、ちょっとシニカルで軽妙です。若干イラっとする部分もありますが、全体的に読みやすく、すべての章が「~は経営でできている」というタイトルとなっており、前書き部分に説明されているように、どの章から読んでも構わない構成となっています。

例としていくつか挙げると――

  • 第3章:恋愛は経営でできている
    短期思考と近視眼による失敗が多い。
    恋愛は手段に過ぎない。その先の目的には自分と相手との幸せがある。
  • 第4章:勉強は経営でできている
    人間は、取り組みの準備のために、時間を浪費しがち。
    大著が難解なのは、著者自身も混乱しているから。全体をまず理解してから2回目に精読する方がよい。
  • 第12章:老後は経営でできている
    老後の不安から寝れない株投資やFX投資を始める人がいる。それがうまくいくほど世の中甘くない。

あまり具体的な内容をここで書いてしまうと、作者が仕掛けた構成の妙を損なうことになりそうなので、要約は控えますが、正直なところ、そんなに深いことは述べられていません。「そうだよねぇ」と共感する部分が多いです。

しかし、そのライトな文章を読み進め、終わりの総論部分を読んだ瞬間、なんとも不思議な感覚を味わいます。今まで軽く自分の頭の中にあった内容が、思考のネットに絡め取られて、整然とまとまっていく感じ。それまでは茫洋と存在していた考えが、急に理解できるようになったというか。深度がぐっと増すのを感じました。

軽い文体も、この深度を増す感覚をより鮮明にするためのあえての手段なんじゃないかと思うほどです。

ここで、もう一度最初から本書を読み直すと、驚くほど文章が頭に入ってきます。著者が第4章で言っていた「大著が難解なのは、著者自身も混乱しているから。全体をまず理解してから2回目に精読する方がよい」というのが体感できます。

なるほど、これがいわゆる帰納法!令和冷笑系文体、恐るべし!この感覚を味わえるだけでも、一読の価値ありだと思います。

皆さまもぜひ味わってみてください。

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