書評:『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』ハンス・ロスリング著

――「思い込み」から解放され、世界を正しく見るために

世界をどう捉えていますか?
「戦争や暴力が絶えない」「資源は枯渇寸前」「貧困は深刻化している」……。そんなイメージを抱いている人は少なくないでしょう。けれど、それは事実でしょうか?

スウェーデンの医師・公衆衛生学者であるハンス・ロスリング氏は、膨大なデータをもとに「世界は確実に良くなっている」と語ります。本書『FACTFULNESS』は、彼がすい臓がんと闘病しながらも執筆した集大成。人間が陥りやすい“10の思い込み”を解きほぐし、事実に基づいて世界を理解するためのガイドです。


10の本能と世界の見え方

本書では、人間が直感的に信じてしまいがちな「本能」を10種類に分類し、それぞれに対する処方箋を示しています。

第1章:分断本能

人は「先進国と途上国」という二分法で世界を見がち。しかし現実は、世界人口の大多数が中間所得層に属しており、分断のイメージは過去のものになっています。

第2章:ネガティブ本能

「世界は悪化している」という錯覚。暗いニュースほど報道されやすく、事実より悲観的に見えるのです。実際には、極度の貧困は減少し、平均寿命も延び続けています。

第3章:直線本能

人口は無限に増える?――そうではありません。子どもの数はすでに頭打ちで、将来の人口は安定に向かっています。

第4章:恐怖本能

恐怖は冷静さを奪い、判断を歪めます。メディアはその心理を利用しがち。だからこそ信頼できるデータを確認する姿勢が必要です。

第5章:過大視本能

人は物事の大きさを正しく測れません。印象的な事例に引っ張られず、全体像を見ましょう。

第6章:パターン化本能

「一つの例=すべてに当てはまる」という早合点。例外や多様性に注目することが大切です。

第7章:宿命本能

「文化や国の運命は変わらない」という思い込み。実際には社会はゆっくりと、しかし確実に変化しています。

第8章:単純化本能

シンプルな答えを求めすぎると、本質を見失います。専門家の意見も絶対ではなく、常に限界があります。

第9章:犯人捜し本能

誰かを「悪者」として名指しすると学びが止まります。大切なのは個人ではなく、仕組みや原因を理解すること。

第10章:焦り本能

「今すぐ決めなければ」と急かされると誤った判断をしやすい。焦りを自覚し、小さな一歩を積み重ねることが大切です。

読後の気づき

本書を通して強く感じたのは、「私たちが抱く世界観は、データではなく思い込みに支配されている」ということです。
実際の世界は、想像以上に良くなっている。もちろん問題は山積みですが、それを冷静に捉え、改善の方向性を探るためには、まず「正しく世界を見る」習慣が欠かせません。

ロスリング氏の言葉を借りれば、必要なのは「謙虚さ」と「好奇心」。感情や思い込みに流されず、事実に基づいて判断することが、私たちをより健全な未来へ導くのだと感じました。

同時に、本書は「マスメディアに踊らされてはいけない」という強い警鐘を鳴らしています。メディアは恐怖や不安をあおるニュースを優先的に伝える傾向があり、その影響を無防備に受け入れてしまうと、世界を誤って理解し、必要以上に悲観的な気分に支配されてしまいます。だからこそ、日々流れてくる情報をうのみにせず、必ず裏付けとなるデータや一次情報を探す姿勢を持つことが不可欠です。

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